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#19 心臓弁膜症のカテーテル治療 | 加古川中央市民病院
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#19 心臓弁膜症のカテーテル治療

心不全パンデミック

心不全とは、心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液を送れなくなる状態のことです。

2025年、団塊の世代の方たちが、75歳以上の後期高齢者に到達し、国民の5人に1人が75歳以上、3人に1人が65歳以上の超高齢化社会を迎えることとなりました。高齢になると共に心疾患、とくに心不全にてお亡くなりになる方が多いのですが、超高齢化社会を迎えた日本では今後10数年、心不全を発症する高齢者が爆発的に増加し、心不全パンデミックとなることが想定されます。 そのため、循環器内科では今後の対処の在り方を検討することが喫緊の課題になっています。

高齢者心不全の傾向(淡路島でのレジストリー研究より想定された日本の将来モデル)

高齢者心不全患者に対処して行くには、まず高齢者の心不全の特徴を知る必要があります。本邦で心不全患者がピークを迎えると考えられる2040年頃の高齢化率(38%程度)とほぼ同様である現在の淡路島内での心不全患者のレジストリー研究から見た高齢心不全患者の特徴は、高齢になればなるほど弁膜症、とくに僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)、三尖弁閉鎖不全症(さんせんべんへいさふぜんしょう)、大動脈弁狭窄症(だいどうみゃくべんきょうさくしょう)による心不全が多いという傾向があることが判明しています。

Fujimoto W, et al. ESC Heart Fail. 2022 Sep 23.

心臓の構造と疾患

弁膜症について

心臓の内部には4つの部屋があります。それぞれの部屋の入り口出口にはドアの役割を果たす弁が付いており、血液の流れを一方向に維持し、逆流を防止しています。弁膜症とは、弁に何らかの障害が生じ、本来の役割を果たせなくなった状態を言い、弁の開きが悪くなって血液の流れが妨げられる狭窄症(きょうさくしょう)と、弁が閉じにくくなり血液が逆流してしまう閉鎖不全症(へいさふぜんしょう)の2種類に分類されます。

弁膜症の症状としては、どの弁膜症もだいたい同じような症状で、動悸、息切れ、足のむくみなどですが、軽症のうちはほとんど気づかれません。しかし、重症になると呼吸が出来なくなったり、失神や突然死を来す可能性のある重大な病気です。また高齢になると、歳をとったせいであると勘違いしたり、無意識に体を動かさないようにしたり、症状に慣れてしまい、いつものことだと思ってしまうことも。 いちど症状が現れると弁膜症の予後は非常に悪く、とくに重症の弁膜症になると1年生存率が50%、5年で20%程度になるともいわれ、早期発見、薬剤による早期治療が重要となってきます。

以前と比べることで体の変化に気づきやすくなります

半年前と比べて、こんな症状はありませんか

弁膜症の原因は、加齢、感染に伴う感染性心内膜炎、以前に罹患したリウマチ熱など避けられない原因もあります。しかし大多数は糖尿病、脂質異常症、喫煙、ストレスなどによる動脈硬化や心房細動という不整脈を生じた結果もたらされます。まずは生活習慣の改善にて予防し、早期のうちに生活習慣病の治療を行うことが重要です。

弁膜症のカテーテル治療

弁膜症は、重症になると手術療法が必要になってきます。

標準的な手術療法は長期間の成績が確立している外科的開胸手術となります。人工心肺を用いた胸を開く手術は負担が大きいため、高齢で体が弱っていたり、他の疾患がある場合には手術が選択されない患者さんも多いのが現状です(6~7割の方が手術を受けられていないとのデータもあります)。そういった方を対象として体への負担が比較的少ないカテーテル手術により治療の幅が広がっています。

主なカテーテル治療は、僧帽弁が閉じなくなっている部位にクリップを挟み込み、血流の逆流を軽減する治療法「M-TEER」(経皮的僧帽弁クリップ術)と、不具合が起きている大動脈弁を人工弁に取り換える治療法「TAVI」(経カテーテル的大動脈弁移植術)があります。

カテーテルでの詳しい治療については当院の特設サイトをご覧ください。

その他の心臓や血管の気になる病気については特設サイトのTOPをご覧ください。

最後に

超高齢化社会の到来とともに弁膜症により心不全を発症する患者さんが今後も莫大的に増加することが予測されます。弁膜症は気づかないうちに進行し、重症になってくると死に至る病気です。ご家族など身近な人が早めに気づいてあげることが、早期の治療につながり重要で長期間の健康寿命につながります。また、重症になったとしても、弁膜症に対するカテーテル治療は日々進歩しており、高齢で体の弱った方でも安全に手術が出来るようになってきています。治療の選択肢は、確実に増えてきていますので高齢だからといって諦めずご自身の希望や価値観を伝えていただき、よりよい治療を一緒に考えていきましょう。

循環器内科 科部長
澤田 隆弘

 

私は、弁膜症だけでなく循環器系のカテーテル治療(冠動脈、下肢動脈など)を専門にやっています。低侵襲なカテーテル治療は、今後もどんどん発展し、新しい治療法が出てくると思います。そういう治療を加古川の皆様にもいち早くお届けできるように頑張っていきたいと思います。関係ありませんが、最近の趣味は全国寿司屋巡りで、日本酒も好きなので地方の酒蔵も併せて見て回ってます。

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