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口蓋裂治療について|形成外科|加古川中央市民病院

口蓋裂治療について / 形成外科

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はじめに

 出産されたお子様に口唇・口蓋裂が発症していた時、初めて目にしたご両親やご家族の驚きは大変なものであったと思います。お子様が「周囲の子供たちと同じように成長していけるのか」など漠然とした今後への不安もとても大きなものであったとお察しいたします。しかし、近年口唇・口蓋裂治療は他の病気の治療と同様に目覚ましい進歩を遂げており、過去に困難と思われた症状でも、治療が可能となってきています。 当院では口唇・口蓋裂のお子様の健やかな成長、発育および、より良い包括的な口唇・口蓋裂治療を目指して頭蓋、顎、顔面領域を専門とする医師、歯科医師を中心とした多職種によるチーム医療を「口唇裂・口蓋裂治療チーム」として実践しています。

 

口唇裂・口蓋裂治療チームの実績

 加古川中央市民病院 口唇裂・口蓋裂治療チームは2014年から発足しました。受診患者数は年々増加し、これまで85人の方が受診されました。口唇裂、口蓋裂に関する手術も2020年は22件施行しました。
 当院は東播磨地区の基幹病院ですが、近年、新規に受診された口唇・口蓋裂患者さんのなかには遠方(中、西播磨地区、丹波地区、但馬地区、淡路島、大阪府等)から受診される方もいらっしゃいます。

 

 

当院の特徴

 当院での口唇・口蓋裂治療の最大の特徴は「一つの医療機関で出生直後からほぼすべての処置を完結できる」ことです。このような施設は全国的に見ても極めて少数です。
 後述するように口唇・口蓋裂は出生時から様々な問題が生じる可能性があり、その内容も哺乳・摂食、発音、審美等多岐に渡るため、出生後から様々な職種が専門的に介入することがより良い治療結果につながります。また、口唇・口蓋裂の治療は長期に及ぶため単一施設で専門性の高い治療を受けることは、治療結果に加え患者さんの時間的・経済的負担の軽減の軽減につながると思われます。
 当院では主に形成外科医、小児科医、耳鼻科医、矯正歯科医、言語聴覚士が発音、摂食、整容、発達等についてフォローアップを行い、緻密な連携のもと必要な検査や処置をしています。将来的な成人期の咬合異常や顔貌の改善に対する手術などの総合的な診療にも対応しており、安心できる口唇裂、口蓋裂治療を提供いたします。

 

口唇・口蓋裂とは?

 口唇・口蓋裂は生まれながらに唇、口蓋(上顎の真ん中の固い部分)に裂隙が生じるものです。500人から600人に1人の割合で起こり、これは体表に現れる異常としては最も多いと言われています。「裂」という言葉の響きから「くっついていたものが引き裂かれた」というイメージがあるかもしれませんが、実際は「くっつくべきものがくっつかなかった」ために生じるものです。
 生まれ持っての病気のため、遺伝子の異常が原因と思われるかもしれません。もちろん遺伝子が原因の場合もありますが、口唇・口蓋裂の70%以上は原因不明といわれています。

 

口唇・口蓋裂の患者さんが抱える問題

・ 口と鼻がつながっているため物を飲み込みにくくなります。そのため生まれたての赤ちゃんはミルクが上手に飲めないことがあります(哺乳障害)

・ 鼻と口を隔てる機能が不十分となり発音が不明瞭になることがあります(鼻咽腔閉鎖機能不全)

・ 耳管(口と耳をつなぐ管)の開閉を調節している筋肉の機能不全により滲出性中耳炎になり易いと言われています。

・ 出生後から上顎に複数回の手術が必要となり、その結果上顎の成長が抑制される傾向が生じ受け口(反対咬合)になったり、歯並びがでこぼこ(叢生)になったり咬み合わせが悪くなる(不正咬合)ことがあります(顎顔面発育障害)

・ 口唇裂の手術の痕や受け口になったときの顔貌など審美的、社会心理学的な問題が生じることがあります(社会心理的障害)

 

治療の流れ

 当院では、まず生後できるだけ早い時期に裂を閉鎖する装具を装着します。そのうえで体の成長や全身的な状況をみて生後3か月頃に口唇閉鎖術、1歳から1歳半頃に口蓋閉鎖術を行います。手術後はきれいな発語獲得のために言語聴覚士による訓練を行います。永久歯萌出後は身体的な成長の程度をみながら歯並び、かみ合わせの治療を開始します。

①術前顎矯正、哺乳指導

 出生時の全身状態にもよりますが、なるべく早い時期に口蓋床(Hotz床)を製作し、鼻と口を分離して哺乳をしやすくします。同時に裂隙を非外科的に狭くすることにより手術の難易度を減少させ、低侵襲的に手術を行えるような状況に近づけることを目指します。

 必要があれば口蓋床に鼻の形の修正を目的としたステントを加えた術前鼻歯槽矯正プレート(NAMプレート)を使用します。

 

②口唇裂の手術

 生後3か月を目安に口唇形成の手術を行います。入院期間は7日前後になります。手術後は鼻や口唇の形態はほぼ満足できるように回復しますが、裂の幅が広い場合などは一度の手術では形態が完成しない場合もあり、就学前や青年期に修正手術が必要となる場合があります。

③口蓋裂の手術

 1歳から1歳半頃に口蓋形成の手術を行います。入院期間は口唇形成の手術と同様に7日前後になります。当院では主に上顎の成長や言語発達に影響を与えにくいといわれているtwo-flap法とintravelarveloplasty法を組み合わせています。

 

④言語評価

 口蓋裂に対する言語治療は、主に発音の不明瞭さ(構音障害)に対して、ことばの専門家である言語聴覚士がご本人及びご家族に指導、助言、訓練を行います。口蓋裂による構音障害には、鼻からの息漏れ(鼻咽腔閉鎖機能不全)による構音障害、発達途上の誤りによる構音障害、代償によって学習した発音(異常構音)による構音障害があります。それらを鑑別した上で適切な時期に訓練を行う必要があります。構音訓練は言語発達も大きく関与するため、4歳前後からの開始することが多いです。その際はPLPという発音を助ける装置を使用することもあります。また、構音には言語発達だけでなく全体的な発達や聴力も影響するため、それらに問題がないかも確認していきます。

⑤顎裂部の手術

 上顎の歯が生える所にある裂を顎裂と言います。歯は骨のないところには生えてくることはできず、また動かすこともできません。そのため、顎裂部の歯の生える時期や歯を動かすタイミングに合わせて顎裂部に骨を移植する手術を行います。概ね7歳から10歳の間に行い、骨は腸骨という骨盤の骨から採取することが多いです。また歯の移動だけでなく鼻と口の間に残存した隙間(口腔鼻腔瘻)の閉鎖や鼻の付け根の凹みや鼻の形の改善も図ります。

⑥歯科矯正治療

 矯正歯科が本格的に治療に介入するのは主に永久歯が生え始める6歳前後になることが多いです。それまでの間は虫歯予防や歯みがきの練習をしながら永久歯が生えるのを待ちます。この時期から部分的な歯科矯正治療や顎の骨の成長コントロールを始めます。永久歯への生え変わりが完了し、身体的な成長が落ち着いたら一般的な矯正装置(マルチブラケット装置)を使って最終的な歯科矯正治療を開始します。この治療でほとんどの場合見た目にも美しく、十分に機能する咬み合わせの獲得が達成されます。

 しかし上顎に対し下顎が過度に成長することがあり、この場合は18歳くらいを目途に手術の併用を前提とした矯正治療(外科的矯正治療)を適応します。詳しくは顎変形症の治療のページをご参照ください。

 また、生まれつき歯が足りない場合はインプラントやかぶせ物の治療が必要となる場合もあります。なお、口蓋裂患者さんの歯科矯正治療や顎裂部へのインプラント治療は保険適応となります。

 

 このように出生直後から学童期~青年期にかけて、全身的な管理、数回の手術、中耳炎への治療、言語治療、歯並びの治療を総合的に行うことによって口唇・口蓋裂のお子様も周囲の方と変わりなく成長していくことができます。当院の医療スタッフはお子様の健やかな成長、発育に少しでもお力になれるよう精一杯取り組んでいます。

 

口蓋裂治療にお悩みをお持ちの方、過去に口蓋裂の治療を終えた方へ

 口唇・口蓋裂の病態は個々人により千差万別で、その治療についても明確に定まった方針がありません。つまり同じ症状の方がいらしてもその治療の方針は医療者の数だけあるということになります。

 また過去に口唇・口蓋裂の治療を終了した方の中には十分な治療を受けることができなかった、あるいは治療自体が受けられず、何らかの不具合が残存している方も少なからずいらっしゃいます。このような場合でも処置を受けて頂くことにより症状が改善するか場合もあります。

 口蓋裂治療についてお悩みや相談したいことがある患者さんは是非当院を受診ください。加古川中央市民病院» 口唇裂・口蓋裂治療チームの主な窓口は» 形成外科» 歯科口腔外科になります。