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薬物療法について|がん集学的治療センター|加古川中央市民病院

薬物療法について / がん集学的治療センター

がん薬物療法の変遷

 集学的治療の進歩により、全がんの3年生存率(2012年)は67.2%、5年生存率(2009-2010年)は58.6%にまで上昇しています。その中でも、がん薬物療法の進歩は目覚ましく、殺細胞薬を用いた従来の化学療法(いわゆる抗がん剤)から分子標的療法や免疫療法へと、その内容は大きく変わりつつあります。分子標的療法で用いられる分子標的薬は、がん細胞に特有の分子(タンパク質)や遺伝子を狙い撃ちすることで、主にがん細胞に作用します。一方、免疫療法で用いられる免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞に直接作用するのではなく、がん細胞を攻撃する免疫細胞の働きを高めることで、間接的に抗がん作用を発揮する薬剤です。
 世界最初の抗がん剤は、1943年第二次世界大戦中に毒ガスとして作られた、ナイトロジェンマスタード(アルキル化薬)です。その後、1950年代に抗腫瘍性抗生物質・代謝拮抗薬・微小管阻害薬が開発されます。ただし、これらのがん細胞のみならず全ての細胞に対して障害を与える細胞障害性抗がん剤の開発は、1990年以降減少します。代わりに、1990年以降は分子標的薬の開発が進みます。2014年には免疫チェックポイント阻害薬が使用されるようになりました。米国FDA(食品医薬品局)における抗悪性腫瘍薬の承認件数は、2000年を境に、それ以前は細胞障害性抗がん剤が、それ以降は分子標的薬が、承認の大部分を占めています。

当院におけるがん薬物療法とチーム医療

 近年、がん薬物療法の多くが外来にて実施され、点滴抗がん薬を投与する場合、当院では2階23番ブロックの通院治療室で行われています。

認定看護師を含む8名の看護師が常駐しており、様々な種類の抗がん薬治療に幅広く対応しています。

側には調剤室も設置され、常時3名の薬剤師により、当院で行われる全ての点滴抗がん薬のミキシングが行われています。

これらがん薬物療法の治療強度を保つため、当院では平日の祝祭日も休むことなく通院治療室での治療を行っています。また9階東病棟には、10床の無菌治療室が設置されており、そこでは多くの白血病治療や造血幹細胞移植が行われています。

入院で行われる治療の際には、理学療法士や作業療法士、管理栄養士などが連日患者さんのもとを訪れ、安全な治療の継続に関わるだけでなく、早期の社会復帰に繋がるようなサポートが行われています。

 がんの病期(ステージ)や治療歴に応じて、エビデンスに基づいたがん薬物療法(標準治療)が選択されます。ただし、根治を目指すものから症状緩和を計りながらがんとの共存を目指すものまで、患者さんや疾患毎に、治療目標や許容される副作用は異なります。当院では、定期的にキャンサーボード(多職種カンファレンス)が開催されており、手術や放射線治療の他、患者さんにとって最善のがん薬物療法の治療レジメンが決定されています。

個別化治療

 近年、がんの原因となっている分子(タンパク質)や遺伝子などに働く分子標的薬(免疫チェックポイント阻害薬を含む)の開発が盛んになっています。それに伴い、これまで胃癌や肺癌などがんの種類別に行われていた臓器別治療から、がんの遺伝子変異や個人の特徴に合わせた臓器横断的な個別化治療が行われるようになってきました。

 「がん遺伝子検査」は、がんの診断のみならず、治療前に抗がん薬の治療効果や副作用を予測することを目的に(コンパニオン診断)、当院でも多くのがん患者さんに対して広く行われており、個別化治療に役立てられています。

 がんで認められる遺伝子変異の多くは、がん細胞に特有の後天的な異常です(体細胞変異)。しかし、全がんの数%程度に認められる家族性腫瘍の患者さんでは、生まれつき全ての細胞にがん発症の原因となる遺伝子変異が認められ(生殖細胞系列変異)、その異常は親から子へと受け継がれていきます。遺伝性乳癌・卵巣癌症候群リンチ症候群が代表的な家族性腫瘍であり、当院ではそれぞれに対するコンパニオン診断も行っています。また異常が見つかった場合、当院には遺伝専門医や遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを行う体制も整えられています。

 「がんゲノム医療」も個別化治療の一つですが、全てのがん患者さんが対象となるわけではなく、標準治療がない、あるいは一連の標準治療を既に終了した難治性固形がんの患者さんが対象となります。そこで行われる遺伝子検査は、通常1種類の変異を調べる「がん遺伝子検査」とは異なり、生検や手術などで採取されたがんの組織を用いて、複数の遺伝子(数十~数百)を同時に調べる「がん遺伝子パネル検査」が行われます。仮にある特定の遺伝子変異が見つかった場合には、その異常に効果が期待できる抗がん薬がないか、複数の専門家で構成された委員会で検討されます。現在、「がん遺伝子パネル検査」は、がんゲノム医療中核拠点病院、あるいはがんゲノム医療連携病院でのみ実施可能です。

「がんゲノム医療」をお考えの場合、まずは担当医とご相談下さい。

診療実績

 2018年度通院治療室で実施されたがん薬物療法のべ件数(ホルモン療法・支持療法を含む)は8000件を超えており、兵庫県下では大学病院に次ぐ診療実績となっています。

また、通院治療室で実施されたがん薬物療法の約6割が、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を使用したものであり、特に後者の占める割合は年々増加しています。

 診療科別の2018年度がん薬物療法のべ件数は、外来では乳腺外科(1710件)・消化器外科(1422件)・腫瘍・血液内科(1158件)の順に多く、

入院では腫瘍・血液内科(702件)・呼吸器内科(570件)・消化器内科(160件)の順に多くなっています。

 固形がんと血液がんでは、その治療内容は大きく異なります。固形がんでは、手術やがん薬物療法、放射線治療を組み合わせた集学的治療を行うことで、長期生存を目指します。一方、白血病・悪性リンパ腫などの血液がんに対しては、がん薬物療法が治療の主体であり、時に造血幹細胞移植を併用することで長期生存を目指します。

 地域の中核病院として、最新の治療も当たり前のように提供できる環境作りを心掛け、多職種チームが一丸となって、東播磨医療圏域のがん生存率向上を目指しています。

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